ドイチャーヒップホップのためのプロレゴメナ

ドイツのヒップホップ(ドイチャーヒップホップ)の曲を紹介したり和訳したり。内容や和訳について何かご指摘があればおねがいします。

Fatoni feat. Edgar Wasser & Juse Ju - DA.YO.NE ~ (prod. by Provo)


Fatoni feat. Edgar Wasser & Juse Ju - DA.YO.NE ~ (prod. by Provo)

 

DA.YO.NEと言えば、1994年にEAST END×YURI名義で出され、大ヒットを飛ばした曲です。そしてDA.BE.SA(北海道)とかSO.YA.NA(大阪)のように各地方にまで波及していきました。それがまさかドイツにもあるとは。このMVのなかでも本家DA.YO.NEのMVからのサンプリングがあります。

 

1. Fatoni、Edgar Wasser、Juse Juとは誰か

Fatoniは、1984年にミュンヘンで生まれ、育ちます。俳優もやっているようです。過去にはCreme Freshというヒップホップグループをやったり、2013年には今回客演しているEdgar WasserとともにNoceboというアルバムを作っています。さらに、2015年には小児科医もやっているラッパー兼プロデューサーのDexterと一緒にYo, Picassoというアルバムを作っています。他にも今回の客演で参加しているJuse Juとも曲を作っており、今年の3月16日に発売される予定のJuse JuのアルバムShibuya Crossingの方にも参加しています。今回の曲だけしかしっかり読み込んではいないですが、リリックは二重にも三重にも意味をもたせる言葉遊びを好むようです。

 

Edgar Wasserは、一応アジア系のルーツをもつようですが*1、シカゴで生まれ、その後3歳のときにミュンヘンに引っ越しているので、生まれも育ちもアジアの外です。ラッパーとしては2007年頃から活動しているようです。laut.deによれば、彼のスタイルを考えた場合、シニシズムや嘲笑、アイロニーという言葉がおもいつくとされます*2。またEdgar Wasserは、他人からの批判も自分のイメージづくりもセルフボースティングも意に介さず、我が道を行くタイプです*3。音楽的には、オールドスクールヒップホップとドイチャーヒッポホップの新しい波という二つの要素を持っているラッパーです*4

 

Juse Juは歌詞のなかにもでてきますが、子どもの頃横浜に住んでおり、さらに大学では日本学(ヤパノロギー)も専攻していました。なのでおそらくDA・YO・NEなど日本的な要素はJuse Juからの影響ではないかとおもいます。この曲以外にもFatoniとEdgar Wasserを呼んで、三人でやっている7elevenという曲では、Takeshi Kitanoばりの「うるせぇなこの野郎」という日本語がHookにあって、しかもそのMVは、お台場や新宿でロケされています(ほんとうはこっちのMVを先に見て紹介しようかとおもってたのですが、自分のドイツ語力では分からないところが多々あり途中で断念しました。今回のも結構無理な訳をしましたが。)。さらに、今年の3月16日に発売予定のJuse Juのアルバムはその名もShibuya Crossingです。楽しみです!

 

2. Fatoni feat. Edgar Wasser & Juse Ju - DA.YO.NE ~ (prod. by Provo)

 上記した人物紹介からもこのDA.YO.NEというタイトルが意図的に使われていることが分かるとおもいます。ドイツ版DA.YO.NEの話に移る前に、日本繋がりでもう一曲見つけたのでそれも紹介しておきます。その曲はFatoni & DexterのAuthitenzitätです。イントロから「日本人」なら懐かしさをかんじるような曲から始まり、そのあとループするメロディにはハッとするんじゃないでしょうか。そう、日本で長年親しまれている大ヒット曲「ねんねんころりよ」のサンプリングじゃないですか!前に演歌をサンプリングした海外の曲や去年だと初音ミクをサンプリングした曲もありましたが*5、まさか日本の子守歌を海外のひとがサンプリングするとは。海外のひとにはあのメロディがどう聴こえてるのか気になります。

 脱線はこのくらいにして、本題に。歌詞は正直分からないところが多かったですが(分かる方、ぜひ訂正おねがいします!)、大雑把に要素を取りだすなら、1)言葉遊び、2)皮肉やユーモア、3)ドイツのヒップホップシーンから距離をとった態度の三つがとりあえず挙げられます。日本をフィーチャーするのも、単純な日本趣味というだけではなく、自分の地元をレペゼンするラップゲームから距離をとるということでもあるようにおもえます。

 また、今回この曲を選んだのは、海外の人が日本的なものを取り入れてラップしてるという驚きや嬉しさももちろんありつつも、曲としてのかっこよさもあります。低いベースと古きよきSFに出てきそうなシンセの音がかもしだす不穏な雰囲気のトラックに、Hookの不気味さとか、かなり自分好み。本家のDA.YO.NEとは曲調がかなり違っています。そんなわけで一応、訳してみました。

 

[Intro: Juse Ju - auf japanisch]

え? 君たちは誰

エトガ・バッサ

ユズユ~

ファトトニ

聞いたことがねぇ

Da.Yo.Ne

 

[Part 1: Juse Ju]

何よその顔

Du brauchst verdammt nochmal nicht so zu schauen

お前はもう一回そういうふうに見る必要はない

Ich glaub der Ampelmann ist blau (Ha!)

おれはアンペルマン*6は青だとおもう*7

Sie sagen, dass Snapchat gerade der Shit ist (Uh!)

かれらはスナップチャットはマジでシットだって言ってる

Echt jetzt? Ich hoffe das geht vorbei wie spanische Grippe (Oh!)

マジで、今?(スナップチャット/スナップチャットユーザーが)スペイン風邪のように過ぎ去ってくれないかな

Ich hänge ab mit meiner japanischen Clique (mit wem?)

おれがつるむのは日本人グループ(誰と?)

Das ist nicht nur so 'ne Line, man, ich hab' diese Clique (achso)

それはLineだけじゃないぜ。おれはこのグループとつるんでるんだ(そうなんだ)

Also ich hatte sie, jetzt nicht mehr

それでおれは彼らとつるんでた。でもいまは違う。

Ich glaube ich sollte nicht auf mein Herz hören (wieso?)

おれは自分の心に聞いちゃだめだとおもう(どうして?)

Denn ich habe den leisen Verdacht es möchte mich zerstören (no no no)

だって少し疑ってて、それはおれをダメにするかもしれないから

Zum Glück können Männer sich nicht selbst einen blasen

幸い男どもは自分で自分のイチモツを尺八できない

Denn sonst hätten die meisten Männer 'ne echt strange Erfahrung (true)

だってふつうたいていの男どもはマジで変わった経験をもってるもんだからな(間違いない)

Ich kaufte mir von meinem ersten Geld ein Katana (wooo!)

おれは最初に手にした自分の金で刀を買ったぜ

Denn als Kind wohnte ich mit meinen Eltern in Japan, in Yokohama (oh)

だって子どもときおれは両親と一緒に日本の横浜に住んでたからな

Da gab's Arbeit für meinen Vater

おれの親父はそこで働いてた

Auf deinem T-Shirt ist ein Parental Advisory Schild (ohh) ja niedlich

お前のTシャツにはペアレンタル・アドヴァイザリーシールがある。かわいいな。

Dann lass dir doch mal von deinen Eltern erzählen was gute Musik ist

まぁ一回お前の親に何が良い音楽か話してもらいな

Die hören wenigstens die Beatles (Phew!)

お前の親でも少なくともビートルズは聴いてる

Du hast für dein Album 'ne Woche gebraucht? (wuh!)

お前は自分のアルバムのために一週間かかったって?

So siehst du Opfer auch aus!

お前は犠牲者みたいだな!

 

 

[Hook - Edgar Wasser]

Is so, Da.Yo.Ne

だよね、だよね

Ja is so (oh shit), Da.Yo.Ne

だよな(おーシット)、だよね

Is so (brät brät brät), Da.Yo.Ne

だよね(着火、着火、着火)、だよね

Ja is so (oink oink), Da.Yo.Ne

だよな(ブーブー)、だよね

Is so (oh shit oh), Da.Yo.Ne

だよね(おーシット、おー)、だよね

Ja is so (oh shit), Da.Yo.Ne

だよな(おーシット)、だよね

Is so (brät brät brät), Da.Yo.Ne

だよね(着火、着火、着火)、だよね

Ja is so (peng peng peng), Da.Yo.Ne

だよな(パン、パン、パン)、だよね

 

[Part 2: Edgar Wasser]

Buenos días, Fatoni, Edgar Wasser, Juse Ju

スペイン語で〕おやよう、FatoniとEdgar wasser、そしてJuse Ju

Das Sextape von uns war nur ein smarter Promomove

おれたちのセックステープはまさにスマートなプロモーションだった

Hat dich erregt, hä? (reingefallen)

刺激的だったか?(ひっかかったな)

Ich wollt' 'nen geilen Reim und ich gebe euch gleich einen neu(e)n

おれはやばいライムを求めてる。そしてお前たちにすぐに新しいライム(9)をくれてやる*8

So wie drei mal drei

例えば3×3

Jedes mal wenn jemand nicht in die Quadrate auf dem Bordstein tritt

誰も縁石のうえの正方形*9に足を踏み入れないならいつでも

Stirbt irgendwo ein Waisenkind (Is' so)

どこかで孤児が死ぬ

Ist grad ne tolle Zeit für deutschen HipHop

ドイチャーヒッポホップにとって最高の時だ

Du verkaufst deinen Scheiß durch Prostitution, das nennt man Strichkot

お前は自分たちのシット(作品)を売春して売ってる。それをひとはStrichkot*10と呼ぶ

Ja ja, dein Album ist schon super krass geworden

はいはい、お前のアルバムはもう超絶やばくなったな

Ich überspringe jeden Song so wie der Punkt bei Karaoke

おれはカラオケのようにどの曲もスキップする

Untergrund Ikonen, Edgar, Juse Ju, Fatoni

アンダーグラウンドアイコン、Edgar、JuseそしてFatoni

Läuft bei uns bis heut' so wie die Fukushima-Umweltkatastrophe

フクシマの環境破壊のようなことが今日までおれたちに起こってる

Idioten wollen versuchen uns am Mic die Stirn zu bieten

馬鹿どもはおれたちにマイクで立ち向かおうとする

Das wird ausgesprochen schwierig, Multiple Sklerose

それは語るのが難しい。(まるで)多発性硬化症

Zum Fertigstellen meiner Bachelorarbeit über Ausbeutung hab ich mir ein MacBook bei Amazon bestellt (ey)

「搾取」についての卒業論文を書くために、おれはアマゾンでマックブックを買った*11

Das könnte dir so passen (yep!)

それはお前にもピッタリかもな

Wie ein Hemd in der Größe, ja das könnte dir so passen

シャツのサイズのように、お前にピッタリかもな

Ist für euch nicht zu fassen wie der Zodiac-Massenmörder

大量殺人鬼ゾディアックのようにお前たちには理解できない

Wir wichsen auf Gegenstände heißt wir kommen zur Sache

おれたちがブツを磨くってことは、本題に入るってことさ

 

[Hook: Edgar Wasser]

Is so (oh shit), Da.Yo.Ne

Ja is so (oh shit), Da.Yo.Ne

Is so (brät brät brät), Da.Yo.Ne

Ja is so, Da.Yo.Ne

Is so (oh shit), Da.Yo.Ne

Ja is so (ey ey ey), Da.Yo.Ne

Is so (brät brät brät), Da.Yo.Ne

Ja is so (bra), Da.Yo.Ne

 

[Part 3: Fatoni]

안녕하세요 (An'yong Hase'yo) wir drei

(韓国語で)こんにちは、おれたち三人

Ist wie "Übertreib nicht deine Rolle 2"

これは「自分の役割を演じすぎるな2」*12のようだ

Deine Olle weiß, ich bin wie Denyo, denn ich komme rein (oh shit)

お前の彼女は、おれがDenyoみたいだって知ってる。だっておれはぶっ込むからな*13

Während sie deutsche Städte wieder auf die Karte setzen

あいつらがドイツの街をまた勝負に賭ける一方で

Sieht man mich in Japan Sake trinken zu meinem Abendessen (oh shit)

ひとは日本で夕飯時に酒を飲むおれを見る*14

Ich bin sehr zuversichtlich, denn meine Zukunft ist klar

おれはかなり自信家だ。だっておれの未来は明るいから

Wenn das mit Tatort nicht klappt werd' ich halt EU-Komissar

Tatort*15で何も音沙汰がなかったら、おれはEUの秘密警察をやる*16

Die nehmen da jeden, und manchmal nimmt das Leben eine lustige Wende

彼らはどんな方向にでも行くし、たいていその人生はいい方に行く

Eben noch Dagobert Duck, schon auf meinem Teller als knusprige Ente (Oh shit!)

かろうじてダーゴベルト・ダック*17か。(こいつは)おれの皿の上にかりかりに焼きあがった鴨としてのってるぜ

Noch paar kurze Momente, dann fällt der erste Schuss an der Grenze

もうちょっとだけ待ってくれ。そしたら境界に最初の銃声が鳴る

Aber wir waren ja dagegen deswegen haben wir keine schmutzigen Hände

でもおれたちはそれには反対。だからおれたちの手は汚れてない

Fat fucking Toni, gottverdammte X-Prominenz (Shit)

ファット・ファッキン・トニ、のろわれた謎の名士だ

Ich bin 1,80, nicht der Größte, aber big in Japan

おれは180センチだが最高身長じゃない。でも日本だとビッグだ

Franz Kafka des Raps, nicht so gut, aber in Sachen sich selbst anzweifeln der Chef

ラップ界のフランツ・カフカだ。悪くないな。でも実際リーダーは自分自身を疑う

Manchmal muss man Lücken lassen wie mein Langzeitgedächtnis

ひとはいつもおれの長期記憶のように余白を残しておかないといけない

Mein Style macht nach wie vor Drive-By auf dein' Style

おれのスタイルは相変わらずお前のスタイルをドライブバイする

Denn dein Style ist scheiße, weißte?

お前のスタイルはくそだからな、そうだろ?

Egal, okay, ja, okay, Da.Yo.Ne, ich und Rap gehören zusammen

どうでもいいや、オーケイ、うん、オーケイ、だよね。おれとラップは一緒だ

Wie Sahne und Danone, Pommes und Mayonnaise

(Dany)Sahne(Danoneが出してるお菓子)とDanone(食品会社)やフライドポテトとマヨネーズのように

Ich betrete die Manege, sehe, ich bin gar nicht der einzige Clown und geh gleich wieder raus (huuuh!)

おれは演技場のうえを歩く。見てみろ。おれが唯一の道化じゃない、そしておれはすぐにまた出ていく。

 

[Hook]

Is so (oh shit), Da.Yo.Ne

Ja is so, Da.Yo.Ne

Is so (brät brät brät), Da.Yo.Ne

Ja is so (hm?), Da.Yo.Ne

Is so (düdüdü), Da.Yo.Ne

Ja is so (oh shit), Da.Yo.Ne

Is so (brät brät bäng bäng), Da.Yo.Ne

Ja is so (pew pew pew), Da.Yo.Ne

 

[Outro - Scratches]

Da.Yo.Ne

Da.Yo.Ne

Da.Yo.Ne

Da.Yo.Ne

Da.Yo.Ne

Da.Yo.Ne

Da.Yo.Ne

Da.Yo.Ne

 

もっとドイツ語ができればより楽しめそうですが、拙訳でもたんなる日本趣味だけじゃない奥行きは分かっていただけたかなとおもいます。トラック選びもラップもいいのでこれからもこの三人を追っていきます。

 

 

 

*1:Edgar Wasser – laut.de – Band

*2:Edgar Wasser – laut.de – Band

*3:Edgar Wasser – laut.de – Band

*4:Edgar Wasser – Wikipedia

*5:DJ YANATAKE 初音ミクサンプリング曲 Big Boi『Kill Jil』を語る

*6:信号機の青信号で使われる人型のマーク

*7:通例、ドイツではアンペルマンの色を「緑」として示すのですが、日本では「青」と言います。つまりこの節はJuse Juが日本で育ったことを暗示しているわけです。

*8:ここではneu[en]=新しいとneun=9とのダブルミーニングになっています。9は次のdrei mal dreiの答えですね

*9:上の3×3に引っ掛けて「平方」の意味もある?

*10:Geniusによれば、この造語は、StrichとKotとStrichcodeのトリプルミーニングになっている。Strichは「売春」のこと、KotはScheißつまり「クソ」のこと、Strichcodeは「バーコード」のこと。

*11:「搾取」について卒業論文を書くために、「搾取」の権化のようなアップルとアマゾンを利用したということ

*12:FatoniとJuse JuとEdgar Wasserの三人は、"Übertreib nicht deine Rolle"という曲ですでに共演していた

*13:Geniusによれば、DenyoはBeginnerというヒップホップグループのメンバー。このラインは、BeginnerのAhnmaという曲のDenyoバースで、,,Denyo, ich komme rein/ Halt’ ne Basspredigt und die Sonne scheint(Denyo、おれはぶっ込む。ヤバイスピーチをしろ。そしたら太陽が輝く。〔BasspredigtはHasspredigtのもじり。Hasspredigtとはいわゆるヘイトスピーチのこと〕)“というラインからの引用。

*14:つまりFatoniは、ドイツの街をレペゼンするラップゲームから抜け出るという主張

*15:「犯行現場」という意味。ここでのTatortは、ドイツで人気の刑事もののテレビドラマのことだとおもいます。

*16:Geniusによれば、役者でもあるFatoniはいくつかのインタビューでTatortの秘密警察の役をやるのが夢だと語っているそう。ここではもしその役にありつけられなかったらEUの秘密警察になりたいと言っているわけです。もちろんそれもありそうにない未来なので、「おれの未来は明るい」わけがないという意味を暗にこめた洒落でしょう。

*17:ディズニーのキャラクターのドイツ語名。英語だと、スクルージ・マクダックまたはアンクルスクルージ。ドナルドダックの伯父でお金を何よりも愛する。